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万年筆にハマる
先日、「メディコ・ペンナ 万年筆よろず相談」という本を読んだ。
万年筆にまつわる物語小説で、就活に悩む大学生と、万年筆屋の店主を中心に話が進んでいく。
読み終えたとき、あたたかい読後感と共に、ふと思い出した。
そういえば、自分も万年筆を買ったことがあったんだった。
今から約6年ほど前、ラミーのサファリという万年筆を買ったことがある。
当時は塾講師をしていた。板書も添削も多く、日々文字を書く量は多かった。
それ故に筆記具には少しうるさくて、「このメーカーはインクの出がいい」とか「これは壊れにくい」とか、そんな話を講師同士でよくしていたと思う。
文房具売り場を眺めるうちに、万年筆がふと目に入った。
万年筆といえば、自分の中ではずっと「高級感があって、大きくて、難しそう」な道具だった。
・ボールペンと違ってインクを入れるのが面倒そう
・値段も高そうで手が出なさそう
・そもそも日常で使いこなせる気がしない
そんなイメージがあったからこそ、サファリの”手軽さ”が妙に刺さった。
3000円くらいで変えて、カートリッジ式で、見栄えもボールペンに近い。
「え、万年筆ってこんなに生活に寄ってきているだ」と思い、ビビッときて買った。
ただ、結論から言うと、そのときは全く響かなかった。
ボールペンと書き方が違うことになれないし。インクの出もよくないし。
(たまたまハズレ個体だったのかもしれないが)
うまく書けない道具は使われなくなる。そうして自分のサファリは引き出しの奥にしまい込まれることとなった。
それが「メディコ・ペンナ」を読んだことで急に蘇った。
引き出しの奥のサファリを思い出すと同時に、改めて万年筆に興味を持ちだした。
今度は”再入門”として、サファリよりもっと手に入りやすい価格帯のものを選ぶことにした。
そして買ったのがパイロットのコクーンだった。
せっかく再入門するんだから、カートリッジにせず、ボトルインクを試してみようと思った。
そこで選んだのが同社の”色彩雫(いろしずく)”のインク。竹炭色と深海色を購入した。
さらに今回は、書き方も改めて調べた。
角度、持ち方、力の抜き方。万年筆は”押し付けて書く”ものじゃないと意識した。
その前提をちゃんと理解してから、紙の上にペン先を置く。
すると、これがもうどんぴしゃりとはまった。
まず驚いたのは、筆圧がいらないこと。
書くのに全く力がいらず、”滑っていく”という感覚。多分、自分にはボールペンが合ってなかったのだと思う。
(この手のひら返しは自分でも笑ってしまう。)
万年筆だと腕や指が楽なのに、文字がちゃんと形になる。
むしろ楽に書く方が字が整う気さえする。
そしてもう一つ、ボールペンにない面白さがあった。
線の強弱、太い細いが自然に出る。筆で書くときのうに、文字に”表情”がつく。
インクもよかった。
特に深海。黒とダークブルーの中間みたいな色で、単純な黒/青にはないニュアンスがある。
インクの乾き方で濃淡がでて、奥行きがあるのが面白い。
色彩雫だけでも20種類以上、メーカー毎にさらにバリエーションがあり、インク沼に落ちてしまいそうである。
(ちなみにボトルデザインがお洒落で、バリエーションがあって、ウイスキーをジャケ買いする自分からすると非常にツボである。)
圧倒的に「書くのが楽」なのはPCだと思う。消せる、直せる、保存も送信もできる。
道具の管理が楽なのはボールペンだと思う。どこでも買えるし、気を遣わない。
それでも書くのが楽しいと思ったのは万年筆だった。
”文字を書く”という行為が作業じゃなくなり、紙の上に残る線が、その日の気分を写すようで面白い。
これが万年筆沼なのだと感じる。
日本のメーカーさんの企業努力のおかげで、万年筆の入手ハードルは本当に低くなっていると思う。
もちろん高級ラインナップは値上げが続いているようだけれど、「始める」ための入り口はちゃんと用意されている。
スマホやPCで文字を書くことが増えた今だからこそ、逆に。手で書く時間に、万年筆を一本足してみるのはどうだろうか。
たぶん思っているよりずっと簡単に、思っているよりずっと深くハマれる。

管理部 小原